「なんとなく、いつもと違う気がする」
現場でこの感覚を持ったことがある看護師さんは多いと思います。でも、根拠を説明できないから口に出せない。忙しいから流してしまう。私も何度もそうしてきました。
先日、その「なんとなく」が身体の異変につながった出来事がありました。今日はその話をしながら、なぜ気づけたのかを分解してみます。
結論を先に言うと、HSPの感受性が鋭かったから、という話ではありません。
- 「いつもと違う」に気づける人が、実際に何をしているのか
- 相手が話し出す声のかけ方(実際に使った一言)
- 精神科で起きやすい「診断の上書き」という落とし穴
- 明日の勤務からできる、具体的な一歩
その日、患者さんは”いつもの場所”にいなかった
私は精神科病院で働いています。
(3交代から精神科の2交代に移った経緯はHSS型HSP看護師が3交代勤務から精神科2交代勤務に転職した理由に書いています)
その日、ある患者さんが普段は立たない場所に立っていました。
それだけです。倒れているわけでも、苦しそうな声を出しているわけでもない。バイタルが崩れているという情報もない。ただ、立っている場所が違った。
でも、私の中で何かが引っかかりました。
不思議なもので、そのとき不安や焦りはありませんでした。代わりにあったのは、「これは精神症状ではなく、身体のほうではないか」という確信でした。理由は説明できません。ただ、そちらに意識が向いていた。

かけた言葉は「何か伝えたいことがありますか?」
私はすぐに声をかけました。使ったのは、この一言です。
今振り返ると、この言葉選びが結果を分けたと思っています。
「大丈夫ですか?」では届かない
もし「大丈夫ですか?」と聞いていたら、おそらく「大丈夫です」と返ってきて終わっていました。私たちが日常的に使うこの問いは、実は否定の返事を誘発しやすい言葉です。
「どこか痛いですか?」でも足りません。この聞き方だと、痛み以外の症状は拾えない。こちらが想定した枠の中に、相手の答えを閉じ込めてしまいます。
- 「大丈夫ですか?」 → 「大丈夫です」を誘発する
- 「どこか痛いですか?」 → 痛み以外が拾えない/こちらの想定に誘導してしまう
- 「何か伝えたいことがありますか?」 → 話す中身を相手に委ねられる
「何か伝えたいことがありますか?」は違います。話す中身を、完全に相手に委ねている。そして「伝えたいことがある」という前提を置くことで、話していいという許可を渡している。
皮肉なことに、私は何が起きているか分かっていなかったから、こう聞くしかありませんでした。分からなかったことが、誘導のない問いを生んだわけです。
返ってきたのは、聞いたことのない訴えだった
その患者さんは、それまで一度も訴えたことのなかった身体症状を口にしました。
私はすぐに医師に報告し、検査が行われ、診断がつきました。
もしあのとき通り過ぎていたら、あるいは「大丈夫ですか?」と聞いて「大丈夫です」で終わらせていたら、発見はもっと遅れていたはずです。
なぜ気づけたのか①:”普段”を知っていたから
ここからが本題です。私は最初、自分の感受性のおかげだと思っていました。でも、分解してみると違いました。
その患者さんがいつもどこにいるのか。どんな歩き方をするのか。どのくらいの声量で話すのか。何時ごろに何をしているのか。意識していなくても、毎日の勤務で膨大に蓄積されています。
その蓄積があるから、ズレが浮かび上がる。感受性の高さは、この蓄積に対する感度にすぎません。データがなければ、どれだけ敏感でも何も検知できないんです。
なぜ気づけたのか②:精神症状だと決めつけていなかったから
そしてもう一つ。こちらが本質だと思っています。
これは平時からの構えです。特別なときだけ発動するものではありません。
この構えがあるから、普段と違う行動を見たときに、身体の可能性が選択肢として生き残っている。あの日「精神ではなく身体では」という確信が立ったのは、直感が鋭かったからではなく、その選択肢を最初から消していなかったからです。
選択肢を消していない人にしか、その選択肢は見えません。
「診断の上書き」という落とし穴
精神科には、診断の上書き(diagnostic overshadowing) と呼ばれる落とし穴があります。
さらに精神科では、疾患の特性や薬剤の影響で、患者さん自身が身体の不調を自覚しにくかったり、うまく言葉にできなかったりすることがあります。訴えが出にくいうえに、出た訴えも精神症状として処理されやすい。二重に見落としが起きやすい構造です。
だからこそ、私たちが非言語のサインを拾いにいく必要があります。立ち位置、歩き方、表情、沈黙。言葉になっていない情報のほうが、はるかに多いからです。
HSPの感受性は、それ単体では武器にならない
HSS型HSPとして生きていると、「人の変化に気づきすぎて疲れる」場面が本当に多いです。私も、勤務中はずっとアンテナが立ちっぱなしで、帰宅する頃には消耗しています。
そもそも看護師という仕事がHSPに向いているのかどうかは、看護師はHSPに向いてる?向いてない?精神科看護師が特性から考える正直な答えで詳しく書きました。
でも今回のことで、少し見方が変わりました。
- 感受性 + “普段”の蓄積 + 決めつけない構え = 看護の技術
- この2つを欠いた感受性は、ただ疲れるだけで終わる
才能の話ではないんです。だから、HSPでない人にも再現できます。
明日からできること
最後に、この記事の一番大事な部分を書きます。
「なんとなく変」で十分です。根拠を説明できなくても構いません。大切なのは、そこで声をかけることです。
ただし、主観で終わらせないこと。
- 開いた問いで声をかける(「何か伝えたいことがありますか?」)
- 返ってきた言葉を、そのまま記録する
- 客観的な観察とバイタルで裏を取る
- 迷ったら医師・先輩に報告する
「確信があったから正しかった」ではありません。確信がなくても動き、そのあと客観に接続する。これが安全なやり方です。
まとめ
- 普段と違う立ち位置に気づけたのは、”普段”を大量に蓄積していたから
- 「何か伝えたいことがありますか?」は、答えを相手に委ねる問い
- 精神症状だと決めつけない構えが、身体の可能性を残していた
- 精神科は「診断の上書き」が起きやすい。非言語のサインを拾いにいく
- 違和感は確信でなくていい。声をかけ、客観と報告につなげる
明日の勤務で、担当している患者さんの”普段”を一つだけ意識して見てみてください。いつもどこにいるか。それだけで、拾えるものが変わってきます。
自分の特性そのものを整理したい方は、こちらもどうぞ。


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